落語用語の基礎知識
落語は古い言葉、今は使われなくなった言葉がたくさん出てきます。それを独断と偏見、
米二流解釈で解説してみました。ですから決して世間で通用するものではありません。
参考文献

 牧村史陽編「大阪ことば事典」講談社学術文庫
 前田勇編「上方語源辞典」東京堂出版
 井之口有一・堀井令以知編「京ことば辞典」東京堂出版

あ〜お / か〜こ / さ〜そ / た〜と /  な〜の /  は〜ほ /  ま〜も /  や〜ん / 
初天神
☆ 「きびしょ」‥‥急須のこと。キュースの音が転じたという説もある。キュース→キューソ→キビソ→キビショ……。バンザーイ!

☆ 「凧揚げ」‥‥昔、上方では凧のことをイカと言った。凧揚げはイカノボリ、イカノボシであった。うちの国宝は滅多に「初天神」をやらなかったが、やる時は「イカ」でやっていた。何故、上方ではイカと言ったのか? 「それは江戸がタコなんで対抗する訳でもないやろうが、こっちはイカなんや。特に理由はない」というのが国宝の説であった。ある時、私は国宝に「もう、今の時代なら『凧揚げ』でええのと違いますか?」と理屈を言ってしまった。うちの国宝はその後、「初天神」をやらなくなった……。

はてなの茶碗
☆ 「ウコン」‥‥字面が良くない。並び替えるとウンコ。どちらも黄色い。…失礼しました。漢字では鬱金と書く。最近は究極の生姜などと言い、ウコン茶など健康食品として有名になった。根茎の断面は鮮やかな黄色で、これを使って染めた木綿が鬱金木綿。私が大好きな色です。引退させましたが、前の高座用座布団がこの色でした。これにはうちの師匠と小さん師匠が座っておられます。両人間国宝の肌のぬくもりが残っているのです。欲しがる人がありますが、売りませんよ。(委細面談)

☆ 「帝(ミカド)、天子(テンシ)」‥‥どちらも天皇のこと。「お天子さん」という呼び方は好きです。軍歌が好きな右翼の方々にもお奨めしたい。

☆ 「万葉仮名」‥‥「はてな」を万葉仮名で書くと「波弖那」となる。他にも書き方があるかもしれないが、ご参考までに。弖は天の異体字と漢和辞典に載っている。

七度狐
(ヒチドギツネ)
☆ 「大井川」‥‥静岡県を流れる川。江戸時代には橋もなく、渡し船もなかったので、人足を雇って肩車、輦台(レンダイ)で渡るしか方法がなかった。しかし、雨で増水するとすぐに川止めになった。現在は上流に大きなダムがあるので、川幅は広いが流れる水は驚くほど少ない。新幹線でここの鉄橋を渡るたびに寂しく思う。

☆ 「庄屋」‥‥今で言えば村長。代官の指揮下で行政事務を取り仕切った。東国では名主。大井川の川止めや庄屋は日本人の常識だと私は思っていたが、高校生になるうちのアホ息子は知らなかった。小学校で習うはずなのに…。本日のお客様はご存じだと思うが念のため。こういうことが分からなくなった原因は時代劇の衰退にある。NHKは「冬ソナ」を時代劇でリメイクするべきだ。さんざんDVDで儲けやがって。庄屋の息子と百姓の娘が大井川の川止めで会いたくても会えない。やっと人足を雇ったヨン様の運命や如何に……。

質屋蔵
(ヒチヤグラ)
☆ 「質屋」‥‥品物を預かって金を貸し、利子を取る。期限までに返済しないと品物は流されて返してくれない。利子だけ払って期限を延ばすことを利上げと言う。質流れの品は売りに出される。私の父の友人に質屋が居たので、子どもの頃、家の中は質流れの品が一杯あった。うちはその質屋から借りてなかった……と思う。

☆ 「繻子(シュス)」‥‥繻子織。経糸と緯糸との組織点を少なく分散させて、織物の表面に経糸または緯糸を浮かせたもの。なめらかで光沢がある。緞子、繻珍(シュチン)なども繻子織の一種。

☆ 「手伝い(テッタイ)」‥‥手伝い職。大家に出入りする職人。大工でもなく左官でもなく植木屋でもないが、なんでもできる人。便利屋というところか。上方落語に出てくる手伝いは熊五郎が又兵衛という名前に決まっている。今の女性のお手伝いさんとは違う。

☆ 「本家(ホンケ)、母屋(オモヤ)」‥‥上のような手伝い職が何軒も出入りしている中で一番頼りにしている出入り先を本家、あるいは母屋と呼んだ。本家はあるが元祖はない。

☆ 「かんざ」‥‥かんざまし。ご婦人の頭に差す……これはかんざし。なんの関係もない。燗酒が冷めて残ったもの。私はもったいないので必ず飲みます。アルコール分が少し飛んでしまっているが、酒には変わりない。

☆ 「菅原道真」‥‥845〜903。平安中期の学者、政治家。学者としては破格の出世で右大臣にまで任ぜられた。藤原時平の策動で大宰府へ左遷され(流された)、翌々年死去。その後、道真のたたりと称する異変が相次いで起こり、霊魂を鎮めるため北野の土地に天満天神として祀られた。幼少の頃から才能は目を見張るものがあり、11歳で詩を書いて父を驚かせたという。わたしゃ、作文なら書いてましたけどね。ご存じ学問の神様。

百年目
☆ 「たいこ持ち」‥‥幇間(ホウカン)とも言う。男芸者。醜男でもよい。美男は客の気が悪い。客の機嫌を取って座を賑やかにする。関西の色街では絶滅したが、会社の営業部にはこういう人が居る。カラオケ・スナックで「取引先が歌いますので拍手をお願いします」と、関係のない我々に言いに来た馬鹿が居た。噺家はみんな優しいので、無視して大騒ぎしてやった。こういうヤツは×。

☆ 「羅宇仕替屋(ラオシカエヤ)」‥‥今のような紙巻煙草のない頃は、キザミ煙草をキセルで吸った。キセルの口をつける部分を吸い口、煙草を詰める部分を雁首と言う。その間を竹の筒でつなぐが、これが羅宇(ラオ)である。消耗品なので羅宇仕替屋がこの羅宇を取り替えてくれた。落語にはよく出てくる。

☆ 「越後獅子」‥‥越後国(新潟県)から関西へ出て来た子どもの獅子舞。いろんな曲技を見せて米銭を貰い歩いた。江戸では角兵衛獅子。この噺の場合は長唄の「越後獅子」。歌詞は越後獅子の舞の趣を綴ったもの。

貧乏花見
☆ 「羅宇仕替屋(ラオシカエヤ)」‥‥キセルは三つの部分からできている。吸い口、羅宇(ラオと読む。竹の管)、雁首(刻み煙草を詰める)の三つ。羅宇は煙草のヤニが詰まったりするので消耗品。この羅宇を取り替えてくれる商売。

☆ 「歯入屋(ハイレヤ)」‥‥下駄の歯を入れ替える商売。どんなものでも何度も取り替えて大事に使ったのですねぇ。

☆ 「ゆもじ」‥‥腰巻。女性が腰から足にかけてまとう肌着。湯巻の文字言葉。文字言葉は主に女性が使った遠まわしに言う言葉である。しゃくし→しゃもじ。寿司→おすもじ。恥ずかしい→おはもじ。もじもじ(?)。

ふぐ鍋
☆ 「ふぐ鍋」‥‥ふぐの毒はテトロドトキシンと言い、青酸カリの千倍の毒性を持っている。自殺するのならこっちのほうが確実。ただメッチャ高いんですと。普及しないのはそれが原因かもしれない。この毒は無味無臭無色。肝を食べると舌がピリピリするというが、それは薬味の紅葉おろしのせいなのである。(ほんまかいな?)ふぐ中毒の症状を紹介する。しびれ、嘔吐、頭痛の後、全身のしびれは麻痺へと変わる。会話も困難になり血圧降下、呼吸困難、やがて死に至る。その間4〜6時間。8時間持ち堪えると生存するという。後遺症もないらしい。ふぐ中毒で亡くなった人では歌舞伎の八代目坂東三津五郎氏が有名。その後、ふぐの値段は暴落したそうだが、今は上がる一方。どなたか「よし、わしがふぐの値段を下げてやろう」という勇気のある人は居てはりませんか?
ふたなり
☆ 「ふたなり」‥‥落語のタイトルとしては極めて恥ずかしくて不謹慎だと思う。変えてみたいほどだ。変えへんけど。具体的に言えば男女両性を備える人のこと。こういう人は本当にいらっしゃる。

☆ 「線香三本」‥‥時計がない時代、遊廓では花代の計算をするのに線香を立てて時間を計った。線香三本はその最低単位。また、これを延長することを「直す」と言う。二十数年前、比較的安くて有名なあの飛田では15分5千円でビールが1本付いていたことを何故かよく覚えている。直さなかった。

☆ 「頼母子(タノモシ)」‥‥これは落語によく出てくる。頼母子講。無尽(ムジン)とも言う。サラ金の「ムジンクン」はこれの洒落ではないかと思ったことがある。小佐田定雄氏には「サラ金にそんな洒落っ気はない」と否定されたが…。要するに、手っ取り早くお金を集める手段であった訳だ。何人かで講を作り、毎月掛け金を持ち寄って、一人がその全額を持ち帰る。その人は、翌月から返済という形で掛け金を持ってくる。お金が必要な人を救済するシステムでもあった。これがたいへん流行したらしい。

☆ 「取り上げ婆」‥‥助産婦、産婆さんのこと。「婆」と呼ぶなんて、若い人は居なかったのかな?

不動坊
☆ 「講釈師」……講談のことを昔は講釈と呼んだ。つまり講釈師は講談師のこと。必ずしも好男子ではない。講釈師の名前、不動坊火焔は、不動明王が火焔を背負っているところからきている。お不動さんにはよく修行のための滝があるので、女房がお滝さん。軽田胴斎は昔、どうさいというカルタがあったから。この噺の登場人物の名前はみんなこじつけである。

☆ 「遊芸稼ぎ人」‥‥芸人のこと。これが技芸師と名前が変わった頃、お上は芸人からも税金を取るようになった。昔は人でなしだったから、税金を払わなくてもよかったのだ。ここだけは非常に羨ましい。私の場合、所得税はほとんど払ってないけど、酒税は一杯払ってます。

☆ 「めでたいことで洗おうなら」‥‥節分、年越しの晩に回ってきた厄払いの文句、「めでたいことで払おうなら」の洒落。落語「厄払い」を聴いてもらうとよくわかります。

☆ 「すき直し屋」‥‥紙屑をすき直して徳用のちり紙を作る商売。仕返しをする3人のやもめの商売はみんな分かりにくい。この名前もこじつけ。徳用だから徳さん。ちなみに主人公の利吉は金貸しで利を生むので利吉と名づけられている。家主さんは……名前がついてない。

☆ 「かもじ鹿の子活け洗い屋」‥‥かもじ(付け髪)や鹿の子の生地を石鹸のなかった時代に素材の持ち味を損なわぬようにさっぱりと洗い上げる商売。活かして洗うので活け洗いと言った。湯を使うのでゆうさん。

☆ 「東西屋」‥‥ちんどん屋のこと。昔はこのしんさん、東西屋ではなく祓い給え(ハライタマエ)屋という設定だった。これはいわば安物の神主さんのこと。神職ということからしんさん。

文違い
☆ 「松島」‥‥明治以来の最も大衆的な遊郭。木津川、尻無川の間の寺島と呼ばれた所を開拓して、明治元年に遊郭の設置を許可された。寺島(●)とその北鼻松(●)ガ鼻の名を合わせたもの。現在は公園や橋にその名が残っている。

☆ 「人参」‥‥ウコギ科の多年草。朝鮮、中国で栽培され成長した根を薬用とする。この根が人間の形に似るので人参という。高価なことでも有名。「人参飲んで首くくる」という成句まである。これは人参を飲んで病気は治ったが、その代金が払えずに死に追いやられたということから来る悲しい例え。

☆ 「真珠」‥‥古くから世界中で薬としても用いられた。その薬効は眼病、熱病、頭痛、不眠症、婦人病、赤痢、麻疹など万病に効く他、強壮剤としても使われている。美容にも良く、クレオパトラや楊貴妃が真珠を粉々にして飲んだという伝説もある。だからと言って、ネックレスの真珠を砕いて飲むのはやめましょう、と宝石屋のホームページに書いてありました。誰がそんなことするかい!

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