2002-05-24
 学習塾
 
うちの子どもは上が小学校6年の♂、下が4年の♀です。二人は中学お受験のために某S学園という山科にある学習塾へ通っております。私の子ですから学力はしれてますが、スポーツ(ラグビースクールへ小学校2年から通っています)をやらせるために受験する訳なんです。ラグビーというと京都の名門D中学を…となる訳ですな。たしかにエエ学校やと思います。問題は授業料の高いこと。でも心配はしてません。上の子の模擬テストの結果は、D中学合格率が20%未満ですから…。(なんのために塾行ってんねん!)

その長男は塾へ行き出して3年目。正念場となったある日のことでした。その日は土曜日で、昼食後、彼はいつものように塾へと出かけたのでありました。それから1時間ほどして塾の先生から電話がかかってきました。

「澤田(米二の本名)さん、お子さんは今日、どうしておられますか?」

「塾へ行きましたけど…」

「いや、見えておられませんねぇ」

びっくりしたのは言うまでもありませんが、ここで驚いた声を出してはいけません。何気ない風を装って、

「いや、たしかに行きました。うちの子はアワテモンでっさかい、ひょっとしたら間違うて他の教室へ紛れ込んで、授業を受けてるのと違いますか?」

落ち着きを見せようとして、かえって見当はずれな事を言ってしまいました。先生のお答えは、

「そんなことは絶対にありません」

そらまぁ、そうでしょうな。3年も行ってんねん…。

「澤田さん、実は今日だけではないのです。ここ1週間ほどずっと無断欠席をされているのです。何かお心当たりがありますか?」

「いいえ。でも、ずっと塾へ行くと言って出かけているのですが…」

「ご存知ではなかったのですね。そうですか。…ま、とりあえずお知らせしておきますので」

と、電話はそこで終ったのでした。

なんということ…。塾へ行ってないとは。高い高い月謝を払ってるのに。…そういうレベルの問題やないか。エライこっちゃ。

妻に話したところ、気まずい雰囲気に…。普段から気まずいのにねぇ…。ほっといてください。

久しぶりに妻と話し合いました。「そんなに塾へ行くことが負担になってたんか。決して強制的に行かせてたつもりはないが、本人は辛いだけやったんやね。かわいそうなことをした。嫌やったら言うてくれたらええのに。小さい胸で苦しんでたんやなぁ…」と、そんなことを。二人の間はどんどん気まずくなって行きます。

妻は私に「捜してきて」と言いました。返した言葉は「何処を捜すねん?」

「大丸に居てると思う…」

山科の大丸は長男のお気に入りでした。『ああ、そうか。ここ一週間ほど家を出たら、塾へ行かんと大丸で時間をつぶしてよったんか』と思うと、万感胸に迫るものがありました。その時、私が思い出したのは、名作アニメ「巨人の星」でした。星飛雄馬は青雲高校を内緒で退学した後も、家族に心配をかけないがため、弁当を持って学校へ行くふりをして、1日をどこかで過ごしていたのです。うちの子は、たぶん大丸の本屋で漫画の立読み…。だいぶレベルが違いますなぁ…。

私は妻に「毎日、帰って来てるんやさかい、今日もちゃんと帰って来るに違いない。それから訳を聞いても遅くない。入れ違いになったらなんにもならん」と言って、家で待っていることにしました。実際、もし大丸で会っても、どう対処して良いのか分からない…というのが正直な気持ちでした。しかし、この待ってる時間の長かったこと…。ああ、辛い…。

長男は夕方になって帰ってきました。ちゃんと終業時刻に合わせて…。

「ちょっとおいで。…塾の先生から聞いたんやけど、お前、この頃、塾へ行ってへんそうやな」

「行ってるよ、ちゃんと」

簡単に白状するとは、こちらも思ってません。

「ほなら、今日もちゃんと行ってたんやな」

「行ってた」

「今日、習ったことを言うてみなさい」

「今日は算数で、○○と??と△△について習った」

こういうふうに質問されることを想定して考えていたのに違いない。

「今日のノートを見せなさい」

どうや。まいったか。

「これとこれ」

ちゃんと見せるではありませんか。いつもの汚い字が書いてある。やってるのかいな?

「けどお前、昨日も行ってへんちゅうやないかい」

「行ってるよー、ちゃんと」

ここで、そばで聞いていた妹が一言。

「お兄ちゃん、行ってはるよ。昨日、塾でも会うた」

この長女の一言で、一ぺんに疑いが晴れました。

「そうや。おかしいで、この話」

これは悪かった。自分の子どもを信用してやらなかったこっちが悪かった。その時、6年生にはもう一人「澤田君」が居ることを思い出したのです。すぐにS学園へ電話しました。

「うちの子は行ってると言うてます。ひょっとしてもう一人の澤田君と間違うてはるのと違いますか?」

「エッ? ハイ、調べてみます」

しばらくして先生からの電話。

「そうでした。もう一人の澤田君でした」

ええ加減にせえよ。こんな単純ミスで、なんの罪もない子どもに不登園のレッテル貼って…。どない心配したと思てんねん。さらに先生は言葉を続けた。

「お宅のお子さんにはなんの問題もございません」

「問題があるのは、オノレの方じゃ!」

扁桃腺辺りまで出かかったその言葉を、私はグッと飲み込んだのでした。