2002-02-18
  トリ交代
 
米朝一門の落語勉強会は、京都と尼崎の2ヶ所で開かれています。それぞれ35年、25年という歴史のある会で、ともにうちの国宝が楽屋で目を光らせています。

この二つの落語会の大きな違いは、京都の会は前もって演目が決まっていますが、尼崎の会は楽屋入りしてから演目を決めるという点です。どっちが楽って? そらネタが決まってる方が楽ですがな。要らん神経を使わずに済みます。

先日、尼崎の勉強会に出演しました。この日は数少ない持ちネタの中から「くっしゃみ講釈」という噺をやるつもりでした。それもしばらくやっていないので、家で一通り口に出してみました。これを「ネタをくる」と言いますが、部屋の中でボソボソ、ボソボソ…。途中で眠くなって寝てしまいました。…こんなことではダメですな。全然緊張感がないのですから。

それでも、電車の中で続きをくって、楽屋入りをしました。その日の出番は全部で7席。トリはうちの国宝で、私は5つ目。とりあえずネタ帳(演目の記録)を見て、アチャーッ…。前々回に「くっしゃみ」は出てるではないですか。これはできん。どないしょうかと思案してると、先日焼肉をご馳走してくれたうちの国宝が声をかけてきました。

「ジーやん!」

うちの国宝は機嫌のええ時は「米二」と言わずに「ジーやん」と呼びます。

「わし、先に出るさかい、お前トリを取ってくれ」

アチャチャーッ…。機嫌はええかしらんけど、言うてることムチャクチャやがな。正直なところ、そういう予感はありました。こんなこと2回目ですもん。3年程前にもございました。前の日から、こういう予感は当たらぬ方がよいのに…と念じておりましたが、やっぱり現実のものとなってしまいました。

「師匠、それはやっぱりお客さんに対して失礼です。人間国宝である桂米朝のトリということで、こんなに一杯のお客様が来てくださっているのです。そこへ私がトリを取るというのはお客様に対して冒涜です!!!」

と立派に理屈をコネる勇気がございません。私が言った言葉は「分かりました」。しもた! なんでこの間、焼肉をご馳走になってしもたんや…。“リクツの米二”も地に落ちたものです。その時、師匠はこうおっしゃいました。

「わしは『肝つぶし』をやろうと思てんねん。ああいう暗い、あと味の良くない噺ではトリは取らん方がええさかい…」 師匠の方がリクツを言うてはります。

しかし、やろうと思ってたネタはできないし、どうしたものかと思っていましたが、なんとかせなあきません。こういう時は、一番最近やったネタをやるのに限ると、その数日前、奈良の会でやったネタ、「軒づけ」をやることにしました。それがベストなのだと自分に言い聞かせつつ…。

結果は…。それはその日のお客様にお聞きください。それにしても疲れた…。